広告費はブランディングで減らせる
「ブランディングが経営にとって大切なことはわかった。でも、ブランディングによって具体的にどんな効果があるのか?」お客さまからよくいただくご質問です。ブランディングが単なる「会社のブランドイメージ刷新」で終わってしまうのではないかという危惧からの言葉です。このようなとき、「最もわかりやすいのは、『広告費を減らせる』ということです」とお答えしています。
どういうことか? を以下にご説明します。なお、ここで言っているブランディングとは、自社の提供価値づくりのことであり、ロゴや名刺のデザインをリニューアルすることではありません。ロゴや名刺のデザインを変えることが直接「お客さまから選ばれる理由」になる可能性は、それほど高いとは思えないためです。
自然と絞り込んでいるマーケティングのSTP
さて、このサイトのコンテンツやブログで何度か書いていますが、ブランディングとは自社の「提供価値」を明確にすることです。提供価値とは、それを知ったお客さまが、世の中に数多とある商品やサービスから、その会社の商品やサービスを「選ぶ理由」となるものです。そして、提供価値をつくるときにイメージするのは、「このような価値を伝えれば、これを望んでいるお客さまは、こう動くであろう」という予測です。
つまり、提供価値を設計していく過程で、市場を分析(セグメンテーション:S)し、その中から顧客とすべき層を絞り込み(ターゲティング:T)、どのような価値を提供するか(ポジショニング:P)を頭の中で自然と絞り込んでいるのです。
やること、やらないことが整理できる
上のようにセグメンテーション/ターゲティング/ポジショニングを自然に整理できていますから、広告・宣伝活動においても「片っ端からなんでもやる」ということが避けられます。逆に、提供価値やその設計プロセスを明確にしていないと、若年層向けにはSNSと連動したキャンペーンを開始し、高齢者向けに新聞折込チラシを配布し、ファミリー層向けに日曜日の早朝マルシェをやる。更に広告代理店に勧められてマス広告を始めるというように、競合他社がやっていることで良さげなものを片っ端から模倣することになります。これでは広告予算がどんどん無くなりますし、担当するスタッフも疲弊してしまいます。
提供価値という基軸を設けて、その軸を中心にマーケティング活動でやるべきことを絞り込むこと、また、やらないことを決めることで、広告活動のさまざま無駄を減らすことができるのです。
思いつきのプロモーションも避けられる
また、多くの会社で結構ありがちなのが、広告担当者が変わるたびに、その会社の広告の訴求ポイントやトーン&マナーが変わってしまうことです。単価の安いコモディティ商品であれば、新鮮味を維持するために広告のトーン&マナーを戦略的に変えることもあります(これも「いつの時代もイケてる商品」という提供価値づくりです)。しかし、ある程度の価格帯の商品になると、目先をコロコロ変える浮足立った会社にしか映りません。その原因は、自社(商品)の提供価値をしっかり理解していない担当者が、広告代理店の提案の面白さだけで広告・宣伝活動を行ってしまうことだったりします。
精度の高い広告提案も期待できる
そんな広告が消費者にうまくはまれば良いですが、そうでなければ費用の莫大なムダです。この点でも、ブランディングという軸があれば広告施策に一貫性をもたせることができます。さらに、広告代理店に提案依頼をする際に、ブランドの提供価値が着地点であることを明確にすれば、提案される企画も精度の高いものとなります。逆に目先の利益や面白さだけを求めても、一過性の提案しかでき上がってきません。
私も、広告やポスター、ホームページの制作依頼をいただいたときに最も困るのが、「とにかく売上につながるもの」「インパクトのあるもの」といったご依頼です。それで制作に着手するのはさすがに難しいとインタビューを重ねても、「ウチらしいもの」、最後には他社事例を見せられて「これっぽいもの」で話は堂々巡り。このような流れで上手くいったケースはほとんどありません。
ブランディングはプロモーションと表裏一体で考える
以上のように、ブランディングによって提供価値を明確にすることで、広告費をはじめとする広告・宣伝活動のムダを削減することができます。また、お金だけでなく、検討の手間や会議の時間を減らすことができますから、執務時間の短縮にもつながります。逆に言えば、ブランディングが単なる「会社のブランドイメージ刷新」で留まってしまっては、実質的な効果を体感するのが難しいものです。ブランディングは広告に落とし込むのを前提に考えること、あるいは広告と表裏一体で考えることが大切だと考えます。