私の密かな楽しみ
前回のブログでは、自社の広告を自分たちの手で作ることで、自社の提供価値やそのターゲットを整理することを提案しました。また、その広告を社外の第三者に見てもらい評価してもらうことで、自らが考えている提供価値と、外からの見え方にズレが無いかどうかを確かめられることをお伝えしました。
この「ズレが無いかどうかを確かめる」に関連することなのですが、私がお客様と一緒にブランディングのワークショプをするときに、密かに楽しみにしていることがあります。それは、「お客様の声で答え合わせをする」ということです。
提供価値の仮説を立てたらユーザーインタビューを試みる
お客様のブランディングの再構築するとき、古賀デザインは「ワークショプ形式」をご提案します。全員の参加は難しいとしても、企画、製造、営業、広報、総務といった部署から、スタッフの方にまんべんなく参加いただき、半日程度のワークショップを数回連続することで、自分たちの「提供価値」の仮説を立て、それを社会に広める方法までをみんなで考えるのです。
提供価値の仮説づくりまでたどり着いたら、ユーザーインタビューをしてみます。B to Cのビジネスをされている会社であれば、これまで複数回の購入をされているロイヤルユーザーに、また、B to Bの会社であれば、お取引先にお話をうかがいます。直接お話をうかがうのが難しければ、アンケートでも構いません。要は「貴社を選ぶ理由」の生の声を聞くわけです。これが「答え合わせ」です。
その提供価値、正しいの?
答え合わせで、自分たちが仮説した提供価値がお客様の「選ぶ理由」と合致すれば、ワークショップの結論は的を射たものということになります。逆に、全く違う部分が評価されていたとすると、提供価値を精製するまでにおこなった3C分析やSWOT分析、STP(セグメンテーション→ターゲティング→ポジショニング)プロセスのどこかに誤りがあったことになります。もっと平たく言えば、これまでずっとお客様に選ばれている理由とは別のことを自分たちの提供価値だと信じて、微妙にズレたプロモーションなどをしてきたことなります。
そんなことってありえるの? そう聞かれそうですが、この手の話は、そこら中にゴロゴロしています。有名な話だと、某自動車メーカーが、自社の電気自動車と同社を代表するスポーツカーとの加速競争をCMにした話があります。結果的には電気自動車がスポーツカーをぶっちぎり、その加速性能を誇示するのですが、そもそも、電気自動車を購入する人は、出足の良さを選ぶ理由にしているのでしょうか? おそらく、環境問題に対する意識が高かったり、電気自動車の存在そのものや技術に魅力を感じているからでしょう。しかし、担当者がCMを制作した理由は、「市場調査をしたところ、電気自動車は遅い、走らないというイメージがあり、それを払拭するため」だったそうです。はたして、そう答えた人は、そもそも電気自動車は購入しようと考えている層だったのでしょうか? インタビュー対象(ターゲット)の選定のミスチョイスが、誤った提供価値を導いてしまった例です。
答え合わせは、必ずしも正解する必要はない
提供価値は、「顧客や見込み客にとっての便益」であり、「顧客や見込み客が商品やサービスを選ぶ理由」です。自分たちが考える自社の提供価値と、お客様からみたあなたの会社の提供価値(貴社を選ぶ理由)がイコールであれば、お客様とのコミュニケーションがうまくいっているということになります。
逆に、どこか食い違うところがあれば、提供価値を精製したプロセスに問題があるということになります。いったいどこにバイアスがかかっていたのかを検証することになるのですが、そのバイアス(=思い違い)こそが、実はずっとつまづき続けてきた要因であり、そこを改善により劇的な変化につながることもあります。「答え合わせは、必ずしも正解する必要はない」という点がポイントであり、これもまた、ブランディングのPDCAプロセスなのです。