私は、お客様に対して、「ブランディングとは、顧客や見込み客に『提供価値』と伝えることです」と説明しています。提供価値とは、「顧客や見込み客にとっての便益」であり、「顧客や見込み客が商品やサービスを選ぶ理由」です。したがって、まずお客様の商品やサービスの提供価値を見つける、あるいは設定することが、ブランディングサービスの第一歩であると考えています。

さて、提供価値を見つけるためには、お客様へのインタビューを行うのが一般的なのですが、その中でよくあるのが、まるで企業理念のような提供価値がインタビューの応えとして返ってくることです。例えば「信頼される品質と性能」「持続可能な社会に貢献」「超高齢化社会を食でサポート」そして「創造力で地域産業を元気に」のようなものです。提供価値は外へ発信するメッセージですから、肩に力が入るのは仕方ありません。しかし、提供価値はそんなに高尚なものではなく、もっと心の本音(下ゴコロと言って良いかもしれません)に寄り添ったベタなもので良いと私は考えています。

B to C(一般消費者向け)商品であれば、「本音に寄り添ったベタなもの」は理解しやすいと思います。たとえば、洋服を寒さをしのぐ機能の優劣だけで選ぶ方は少ないでしょう。また、企業理念でアパレルブランドを選ぶという方も稀有だと思います。やはり、その商品を買って身につけることよって自分が素敵に見え、異性の目を惹きつけることができる、あるいは、まわりの友達から称賛の声をもらえるデザインやブランドであったりするなど、「マズローの欲求5段階説」でいうところの「所属と愛の欲求」や「承認の欲求」に立脚するのが、心の動きのどこかにあるのではないでしょうか。

また、機能性が重視されるアウトドアウェアであっても、機能や性能は考慮しつつ、やはり周りから「いいね!」と言ってもらえるファッション性やブランドストーリーも総合的に判断してウェア選びをされていると思います。B to Cの多くの商品やサービスでは、提供価値は、「認められたい」「褒められたい」という本音を起点にすべきと考えます。

それでは、B to B(企業向け)商品の場合はどうでしょう?ビジネスは個人消費と違って感情を押し殺したドライな世界ですから、ロジカルに「信頼される品質」を謳えば買ってもらえるでしょうか?それも間違いではありません。しかし、問題は競合企業もまた「信頼される品質と高性能」を謳っていることです。

提供価値は「選ばれる理由」ですから、競合他社よりも一歩抜きん出ている必要があります。他社と横並びでは「たまたま選ばれた」でしかありません。だからと言って低価格を打ち出しては、売っても売っても利益は薄く、経営を圧迫するだけです。

ではどうするか? ズバリ、この時の提供価値は「これを選べばあなたは称賛される」です。

たとえば、生産ラインに導入する新しい機器を検討するとき、担当者は複数の製品をピックアップし、それらの仕様、性能、信頼性、価格、納期、アフターサービスなどを総合的に検討します。そして、社内プレゼンや稟議を行います。さて、その選定プロセスを先読みし、他社の導入例といったエビデンスを提供し、理にかなうプレゼンをサポートしてくれる会社と、ただ一方的に「信頼される品質と高性能」を謳っている会社の商品とで、仮に同性能・同価格であればどちらを選ぶでしょうか?

担当者も企業人です。上司や経営陣に「なるほど、ありがとう」と納得と称賛を得ることが、自身の後々に影響することはわかっていますから、会議の場で周囲の理解を得やすい製品を選ぶのではないでしょうか。つまりこれも、担当者の「担当業務で失敗したくない」「出生街道に汚点を残したくない」という本音を反映したものです。

発展途上国や被災地、生活困窮者の支援、あるいは地球環境や希少生物の保護など、高い理想を掲げ、それを提供価値にしている活動もたくさんあります。すべての提供価値がベタであるべきとは言いません。しかし、消費財やサービスの場合、かなりの割合のものが人間本来の欲求に基づいて選ばれているのであれば、提供価値もまたその欲求に響くものであったほうが良いというのが私の考えです。

提供価値を考えるときには、自社本位ではなく、顧客や見込み客など「選ぶ側」の視点から自社が選ばれる時の「心の動き」や「決め手」から逆算して検討する。それも建前ではなく、人には言えない本音の部分にフォーカスすることがポイントです。もちろん、その考えをそのまま顧客や見込み客に伝える必要はありません。上手くオブラートに包んでそっと差し出すのです。

なお、このときに自社商品がすばらしく、愛情を持っているとはいえ、過大な評価は禁物です。あくまで客観的に比較することが大切だと心得てください。また、その結果、「本当に顧客や見込み客の心を揺さぶることができるか?」と疑問を感じたときには、提供価値やその伝え方の改善だけでなく、商品やサービス自体の開発・改善に立ち戻る必要があるかもしれないことを心得てください。

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