ブランディングと聞くと、まず頭に浮かぶであろう「シンボルマークやロゴのリニューアル」。私見ではありますが、ブランディングだからといって、必ずしもシンボルマークやロゴを新しくする必要はないと考えます。理由は次の3つです。

まず、シンボルマークやロゴを変えることがブランディングの主目的になってしまうリスクを避けるためです。ブランディングの目的は、自社(の商品やサービス)が選ばれる理由を明確にし、それをブランドの提供価値として伝えることであり、シンボルマークやロゴの変更は伝えるための手段のひとつに過ぎません。しかし、いつの間にかシンボルマークやロゴのデザインが目的になってしまうことがあります。デザインについてみんなでワイワイ語るのは楽しいため、ついついそっちがプロジェクトの中心になってしまうのです。しかし、それによって提供価値を練り上げたり、その伝え方を検討する時間が簡略されてしまっては、本末転倒と言わざるを得ません。シンボルマークやロゴが決定した時点で達成感を感じてしまってはダメだということです。

もうひとつの理由は、シンボルマークやロゴの役割です。極端なことを言えば「シンボルマークやロゴは何でも良い」と私は思っています。シンボルマークやロゴを制作する際に、デザイナーは「シンボルマークはブランドの提供価値の象徴」みたいなプレゼンテーションをしますが、本当にそうでしょうか? たとえば誰もが目にしたことのあるソフトバンクのロゴは、見た目だけで言えば「ただの2本の線(そのシンプルさが逆に印象に残る訳ですが)」です。その背景には「孫正義さんが尊敬する、坂本龍馬が率いた海援隊の旗印がモチーフ」というストーリーがありますが、それは孫さんの思い入れが起点であり、ブランドの提供価値を具象化したり起点にした図柄ではありません。シンボルマークやロゴは、それをエンドユーザーが見た時にブランドの提供価値を思い出させる、まさに「旗印」でさえあれば良いと考えています。

最後にコストです。ブランディングとシンボルマークやロゴのリニューアルがセットで語られるのは、うがった見方をすれば、提案をする広告代理店やデザイン会社がデザイン料を得たいという腹の中があるからではないでしょうか? 「選ばれる理由」づくりだけでは形として見えないため高額の請求ができませんが、シンボルマークやロゴが表示される、名刺やステーショナリー類、社屋サイン、商品パッケージ、広告類など、すべてのアイテムをデザインし直すとなると、それなりの「まとまった仕事」が生じるからです。しかし、依頼する側からすれば、このコストアップがブランディングに着手するネックなってしまっている場合があります。

ブランディングにおいて、必ずしもシンボルマークやロゴを新しくする必要はありません。まずは、提供価値を明確にして、社内で共有化することが最優先です。その上で、シンボルマークやロゴを変更する必要性が明確になれば、あらためて検討するという段階的な導入も考えてみてはいかがでしょうか。

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